:映画『FLY,DADDY,FLY』

先日観に行った『姑獲鳥の夏』に引き続き堤真一主演作を。この夏は堤真一マイブームが起こっておりこの2本を見逃しては死して屍拾う者無し、と考えていたので取り敢えず本懐達成。というか、この「死して……」という名台詞は色々なところで使われるけど出典を知っている人はどれだけいるのだろうか。これも一種のキャラクター化と言ってもいい気がするのだが。
ところで堤真一についてはこの夏のマイブームと言った舌の根も渇かぬ内にその前言を撤回してしまう事になるが、実は前々から結構好きな役者さんである。『ポストマン・ブルース』とか『DRIVE』とか、つまりSABU監督作品な訳だが、実にいい味を出していたのでその後も割と注目していた。特に『ランチの女王』の失踪する兄役がヒョロリラとした感じで笑えた、ってそれ全然メインの登場人物じゃないよ。
そんな訳で主演:堤真一の魅力という観点に立って本作を『姑獲鳥の夏』と比較しつつ語ろうと唐突に思い立った訳だが、ええ、その点では本作の方が断然に面白いと思います。『姑獲鳥の夏』の京極堂というのは古本屋の主人で神社の神主且つ憑物落としというミステリアスと言うかある意味過剰演出な人物で、その一方で謎解きを行い語る探偵役であるが故に彼自身の内実については(少なくとも今回は)踏み込んで描かれてはいない。魅力的な役どころであるのは確かなのだが、それ故逆に一本調子な印象になってしまう点は否めないのだ。それに比較すると本作は、良きマイホームパパ、逆境から逃げ出しかけた弱き中年男、そして再び自身の大切なものを守れる存在たろうと決意する熱血オヤジという3つの段階を持つ人物を主役に据え、またその其々と変化の過程を堤真一は演じ切っている。それはつまり、役者の演技力がより引き出されていたという事だと思う。まあ更に言ってしまうと、こういう「普通のサラリーマンが色々な事を経由しつつハジけていく」役を多くこなしている彼にとってある意味オーソドックスな役どころだからなのかも知れないが、それ故にこちらを惹き込む力の強い、安心感のようなものを感じられるよく出来た作品に仕上がっていた。
因みにそれ以外の点について言うと、堤真一演じるサラリーマンを鍛える高校生に岡田准一が当てられていて、作中で鷹を模した儀式のようなダンスをするのだけれどこれがどうもイマイチで、どんなにシリアスなシーンでもこのダンスが出ると何となく笑いを誘われてしまうというのはある意味稀有な才能だったような気がする。どうだろう。